「細胞を創る」研究会

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「細胞を創る」研究会会長からのご挨拶(H26)

SUGA
菅裕明
(東京大学
大学院理学系研究科)

 「細胞を創る研究会」の活動記録をみると、2005年に岩崎秀雄・上田泰己両氏が世話人となり、研究会の前身ともいえる「細胞を創る」会議が福岡で催されています。2014年の今年は、その前身会議から数えると10年目の節目、といえるでしょう。実は、私が本研究会に出席するようになったのは、基調講演者として参加させて頂いた2011年の研究会4.0からでありまして、私は初期の会議でどのような議論がされたのか、その現場にいなかったために知らない人物であります。研究会のWEBをみると、研究会発足当時から関わってこられた過去の会長の方々が、「細胞を創る」ということに関して、その思いを熱く語っておられ、果たして私にその役割を全うできるか、心配になっているのが正直なところであります。しかし、その私が、平成26年度の「細胞を創る研究会7.0」を東大・弥生講堂で開催するにあたり、研究会に対する今後の期待をまずは綴っておこうと思いました。

 「細胞を創る研究会」の最大の魅力は、年齢を超えて、純粋に基礎研究を議論する姿勢をもつ参加者です。昨今、国あるいは世論は、基礎研究よりも応用研究を進めることを求める傾向にあります。また、そういう研究が注目を集める傾向にもあります。しかし、本当に価値のある応用研究は、独創的な基礎研究から生まれることは疑いの余地もありません。そういった中で、「細胞を創る研究会」が果たす役割は極めて重要です。「細胞を創りたい」「細胞みたいなものを創ってみたい」という純粋且つ強烈な科学的モティべーションから生まれる研究の価値は、それが実現できるかどうかではなく、その過程から生まれる新しい知見や技術、そして人材なのです。それを生み出す触媒として、「細胞を創る研究会」は今後も発展していって欲しいと切に願います。

 このような研究の発展を目指したオープンな研究交流と議論の場として、今年の11月には「細胞を創る研究会7.0」を開催します。本研究会では基調講演者として、世界トップクラスであり、また個性の異なる合成生物学者を3人お招きしています。一人目は、私の旧友でもあるOxford大学のHagan Bayley教授です。Bayley教授は非常に独創的な研究を進めておられ、彼の最も著名な仕事の一つには、Hemolysinを二重脂質膜に挿入し、その中空胴を通るDNAの塩基配列を読み取る1分子シーケンス技術を開発されました。しかし、今回私が彼にお願いしている講演では、彼が近年力を入れているドロップレットプリンティング技術を駆使した細胞の三次元構築の成果を発表してくれることになっています。「細胞のようなもの」「生体組織のようなもの」を創り出す独創的であり、また工学・理学・医学の垣根を超えた広範囲の学問領域を網羅する研究であります。きっと「細胞を創る研究会」の参加者全員が楽しめ、また彼の哲学を含め刺激になる講演になることでしょう。二人目は、「細胞を創る研究会6.0」の大会委員長であった慶應大学の板谷光泰教授です。板谷教授もまた、独創性の高い研究を進めておられる日本を代表する合成生物学者であり、彼がもつ「細胞を創る」夢を大いに語って頂けると期待しています。最後の一人は、当研究会にもゆかりの深い新学術領域「分子ロボティクス」の研究代表者である東京大学の萩谷昌己教授です。彼もまた、DNAコンピューティングからモデル分子ロボットまで理学・工学にこだわらない幅広い研究を進められており、「モデル化した生き物を創る」研究をお話し頂けると期待しています。

 本研究会は、今後も幅広い分野の研究者の交流の機会を積極的に提供してきたいと考えています。「細胞を創る」研究分野の益々の発展のため、皆様のご協力をよろしくお願い致します。

平成26年5月
細胞を創る研究会 会長
                菅裕明