「細胞を創る」研究会

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「細胞を創る」研究会会長からのご挨拶(R5)

会長挨拶


市橋 伯一
(東京大学 大学院総合文化研究科)

 「細胞を創る」研究会も今年で16年目を迎えることになりました。思えば、17年前のキックオフミーティングの時、私は学位を取り立ての博士研究員でした。それまで私は伝統的な微生物の生化学と遺伝学をやっていたのでその、「細胞を創る」という挑戦的な名称を(できてもいないのに)使う大胆さに驚き、そんなことが許されるのかと心配になりつつも、新しい風を感じてワクワクしたことを覚えています。この間、人工細胞の研究に対する世の中の扱いが大きく変わってきました。17年前だと人工細胞を作るなんてまともな研究ではないという雰囲気がありましたが、今や国内外で人工細胞や合成生物学を取り込んだ大型プロジェクトが推進されており、様々な細胞の機能を再構成された人工細胞が開発されています。細胞を作る研究は間違いなくこれからの科学の大きな潮流となっていくかと思います。

 さて、なぜ今、細胞を創る研究に注目が集まってきているのでしょうか。私見ですが、ひとつには私たちは天然生物の不自由さを知って、その限界を超えたくなっているからだと思います。過去50年あまりの分子生物学の進歩は、細胞の中の仕組みの多くを明らかにしてきました。細胞内の複雑で精巧な分子機械やその組織化された振る舞いは驚異的ですが、一方で、もっとシンプルにできそうなことをわざわざややこしくやっている(ように見える)ケースも目に留まります。私などは、「自分が神様だったらもっとうまくデザインするのに」としばしば思うのですが、天然生物は誰かがデザインしたものではなく、進化の歴史に縛られていますので仕方がありません。進化の産物である天然生物には限界がありますが、人工細胞にはありません。自然界では生じ得ないような可能性だって検討できるのが人工細胞研究の魅力です。ここでは細胞という言葉を使っていますが、そもそも細胞構造すらなくてもいいかもしれません。人工細胞を作ることを通じて、私たちは天然生物を超えた生命のポテンシャルを明らかにできるはずです。

 そんな時代の最先端を行っているに違いない第16回「細胞を創る」研究会は東京大学駒場キャンパスで9月25-26日に開催予定です。駒場の特徴である古き良きアカデミアの自由さとおおらかさを感じられるような年会にしたいと思っております。ご来場をお待ちしています。

令和5年1月
「細胞を創る」研究会 会長
市橋 伯一