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「細胞を創る」研究会会長からのご挨拶

Nomura
野村 M. 慎一郎
(東北大学大学院)

こんにちは,今回会長職を拝命した野村と申します.東北大学で分子ロボティクス研究室を運営しています. 「細胞を創る」研究会は11年目となりました.細胞がもうすぐ作れるのではないか,作った先に何があるのか,という気に急かされつつも地道に続いていますね.私は初回前から参加していますが,とっとと細胞作ってこんな研究会終わらせたるわ!と意気込んで初回の朝まで当日夜中も実験をしていたことが懐かしく思い出されます.11年目ですか…無力すぎる.これは野村連敗の歴史です. それはさておき,本会は「熱い」のです.毎回,特に若い世代の研究者や学生さん達がポスターの前で熱く語りあう姿が印象に残っています.その魅力を考えるに,究極の生命単位である「細胞を創る」という営み自体に,生命とは何か,その起源とはどのようであったか,これから生命はどこへ向かうのか,というヒトが考えうる中でも十二分に大きな問いが込められているからではないでしょうか.その大きな問いを前にして,ヒトにはそれぞれ様々なアプローチ,目線があることでしょう.「生命とは何か?こうだ!どうだ貴様ら喜べ,嬉しいだろう!」という超上から目線や,「ある細胞のある分子セットを再構成して動かしたら分裂する人工細胞できた.汎用的な人工細胞分裂できそうだよね?」という横から目線や,「ある分子とある分子をある条件で組み合わせただけで,こんなに面白い時空間の振る舞いが出たのです,はい,しかもこの条件ではこんな風に同期したりして…細胞に似ていませんか?似ていませんか,そうですか.いえいえ,これが自然を何か変えられるなんて大それたことは思ってもいないのですが,ひょっとして生命って基本これなのでは…?」という超下から目線や,「人工分子作ったよー,これで進化するよー」という異次元目線や,それらをさらに外から眺めて「いや君らの姿勢ってどうなの」と煽ったり諌めたりする目線の人も巻き込んで議論して,帰るころにはいろんな目線が入り混じって何かを語らずにはいられなくなる,そんな効果とパワーのある研究会なのではないかと勝手に思っています.

そんな熱い研究会をつづけていった先には何があるのでしょうか.議論を深め,新たな発見や技術が報告され,細胞を創ることの意義と技術が社会に浸透してゆく.何度か残念な事故があるかもしれません.そして誰もが簡単に気軽に細胞を作れるような世界になる…それはナンセンスなSFでしょうか?
ところで,皆様「スライム」って作ってみたことがありますか?そう,小学校の自由研究で人気のアレです(右上図).洗濯のり(ポリビニルアルコール)をホウ砂で架橋したゲルの一種で,スーパーマーケットで手に入る材料で簡単に作れます.毎年7月末のオープンキャンパスには(研究室が厳しいか就職状況はどうかなどが気になる)配属前の大学生に混ざって,小中学生やそのご家族が大勢みえられます.我々のラボでは,そこでひんやりぐんにゃりのびるスライムを作って触ってもらいながら「こんなに簡単に作れるスライムは,分子の集合体なのです.将来,勝手に動き出したり,増えはじめるようなスライムが簡単に作れるようなになったとしたら,君はどう感じる?何を作って,何をさせる?」という問いかけをしています.自動する人工物にはプログラム可能性がとても重要だということに気づいてもらいたいのですが,キモい,怖い,やっつける,などという物騒なお返事に若干ひるみつつも「そんな生きたようなスライムが作れるようになるかな?」と尋ねると,少なくない人たちが「なる」と答えるのです.タンパク質合成キットが売られ,iPS細胞がノーベル賞に輝き,ゲノム編集やゲノム書き出しがニュースになる昨今,「細胞を創る」という研究テーマに手応えを感じているのはもはや研究者だけではないのでしょう. しかし本当でしょうか?そこで,さあ,浪漫にゃ溢れつつも疑いに疑い抜くプロの出番です.

昨年の京都大会では参加者230名,講演29件,ポスター発表78件,9件の企業に協賛をいただきました. 本年の研究会は,仙台を舞台に10月18日(木),19日(金)に行われます. おれの手で次回こそ終わらせてやる,細胞を創ったあとの世界を見てやる,そんな気概の方もそこまででもない方も, まだ見ぬ作られしものについての自慢の理論や実験結果,シミュレーションや考察をお持ちよりいただいて, 杜の都仙台でお会いしましょう!

平成30年4月
「細胞を創る」研究会 会長
野村 M. 慎一郎