「細胞を創る」研究会会長からのご挨拶(R1)
高井 和幸
(愛媛大学大学院)
こんにちは.「細胞を創る」研究会の会長を拝命しました愛媛大学の高井です.
この会は,2005年の12月の福岡での分子生物学会の際に行われた非公開の第1回細胞を創る会から始まっています.私も呼ばれて朝まで議論したのを鮮明に覚えています.このときに議論したことは,本当に一から,つまり,無生物である分子を集めて,生きている細胞を組み立てることでした.そうすることで,細胞・生命をより深く理解し,新しい機能をもった人工細胞を開発する,というのです.とにかく,若い研究者ばかりで,活気にあふれていました.私はその時点で既に,集まった中で上から何番目かの年長者でした.ちょっと年寄りくさいかもと思いながら,「タンパク質合成系を使うのなら,まず大腸菌のものを使ってできることをやるべきだ」と主張したのを覚えています.一方で,自分が老いぼれないためにもこの会にだけは毎年出ようと思って,2007年の「細胞を創る」研究会0.0から昨年の11.0まで皆勤しています.その間に初期メンバーもほとんど40台半ば以上になり,もっと若い人たちが活躍するようになっていきました.
一方,いわゆる合成生物学の分野はこの間にめざましく発展しました.特にゲノム編集・ゲノム合成の技術の進歩により,人が設計した人工細胞を利用することが,現実味を帯びてきました.Sc2.0では,設計したゲノムを持ち,基礎研究材料としても物質生産などの応用面でも有用な酵母の作成が,着々と進んでいます.ヒトゲノムの設計も進んでいるものと思われます.これらの方法論は,いろいろな意味で社会を変えるかもしれませんし,この方向で研究が進むことで生命の理解も進むものと思います.
しかし,「細胞を創る」研究会は,このような,生きた細胞からスタートして別の生きた細胞を創る方法論も議論の対象にしつつも,それだけでは満足しません.生きた細胞と生きていない物質の境界が知りたい,物質から生きた細胞を作れないのなら,細胞を理解したことにはならない,という思いが,この会を支えています.米国では,一昨年にBuild-A-Cell Communityというものができました.また,昨年の秋にはNature誌でbottom-up biologyの特集が組まれました.ゲノム合成による人工細胞が現実味を帯びてきて,ようやく,本当に一から細胞を創る機運が盛り上がってきたのかもしれません.
さて,今年の研究会は,10月17日(木),18日(金)に,松山で開催します.科学未来館での0.0以来干支がひと巡りして,初めて本州から出ます.基調講演には,生命の起源に関する話題と,細胞が創れる社会に関する話題をお願いしています.また,新学術領域「ソフトロボット学」の共催セッションを設けさせていただきました.他に,RNAテクノロジー,無細胞でタンパク質を創る,細胞建築学,に関するセッションを予定しています.
皆様,お誘い合わせの上,温泉と文学の街にお越しください.
令和元年5月
「細胞を創る」研究会 会長
高井 和幸