「細胞を創る」研究会会長のご挨拶
四方哲也(大阪大学)
近年,生命科学に大きな転機が訪れています。様々な現象に関わる生体分子を探し当て,その機能を解析することで飛躍的な発展をとげてきた生命科学において,ゲノム解析に代表される網羅的な知識の蓄積から生命・細胞の設計図を丸ごと捉えようとする動きが加速してきました。
学問のもう一つの流れとして,個々の分子を試験管内に集合させて細胞の機能を再構成する研究手段があります。古くより,転写・翻訳などにかかわる分子集合体の再構成研究はありましたが,最近の技術的進展が,この構成的なアプローチの拡大を支えています。
第一の例は,ゲノム全体の人工合成へと至った長鎖DNA合成技術の発展です。また,タンパク質合成系・調製技術の研究の進展があります。そして,微小スケールの反応場となる,リポソーム調製技術やマイクロ加工技術の進展があります。今や,これらの進展により,「細胞を創る」ことが,現実的な研究テーマとなってきているのです。
「細胞を創る」研究は,生物を知るための理学的研究手段であり,生物工学の技術進展の指標となる一里塚でもあると同時に,「細胞とは何か」「生命とは何か」という問いを,自然科学的観点においてだけでなく,社会文化的側面から考察する材料ともなります。
私も参加してきた本研究会の準備会合において,各研究分野からの議論により,本研究分野の持つ多面性が明らかになりました。それと同時に,既存の個別研究領域にとどまる限りにおいては,研究分野を進展させるために必要な考え方を得がたい,という認識を持つようになりました。
すなわち,「細胞を創る」研究のためには,真に学際的な交流が可能となる場が必須なのです。
そこで,本研究会は,学際的な交流を促進するため,ポスター発表を中心に据えた大会を開催します。今年2008年は,大阪大学にて開催予定です。今後もより一層の理学的・工学的な進展が予想される「細胞を創る」研究が,人類にとって有益な方向に展開するためには,広範な科学・技術の学問領域の研究者だけでなく,生命観や倫理・安全面に関わる研究者・専門家の間での議論が必要となります。
さらに,社会と科学・技術の双方向コミュニケーションを積極的に推進するとともに,このような学際領域に関わる国際的な交流も必要となります。本研究会は,大会以外にもこれらの交流の場を提供することを目指しています。研究領域の発展のため,皆様のご協力をぜひよろしくお願いします。